琉球舞踊シリーズ　Vol.30
現代に生きる若手舞踊家
玉城流琉扇會　平田行正琉舞道場
踊り手　伊礼京子
1987年

雑踊り
雑踊りとは明治以降の芝居で創作振り付けされた舞踊のこと。
姉小舞（あんぐゎーもーい）とも呼ばれ、民謡や俗謡を使い
芭蕉布や絣など日常の着物をつけて、踊りの振りも自由に
庶民の世界に沿った踊りとなっています。

この踊りの本歌は粟国の民謡で「照喜名節（てるきなぶし）」と
「芋の葉節（んむぬふぁぶし）」と言いましたが、
この歌に明治30年代玉城盛重（たまぐすくせいじゅう）先生が振り付けた舞踊が、むんじゅる平笠をかぶった清楚な野良姿の百姓娘の踊りだったため、「むんじゅる笠の踊り」として親しまれ、
後に「むんじゅる」と一般化したそうです。
むんじゅる笠は今では舞踊の小道具となっていますが、
戦前までは広く愛用されていました。

本歌の「照喜名節」は粟国駐在の琉球王府の代官津波古（つはこ）という役人が島の娘達から恐れられており、津波古が居る照喜名は娘達の鬼門となり、警戒された様を歌っています。


歌詞
【早作田節（はやつぃくてんぶし）】
若さ一時の　通い路の空や（わかさひとぅとぅちぬ　かゆいじぬすらや）
闇のさく坂も　車とう原（やみぬさくひらん　くるまとうばる）
〈若いとき、恋人の元へと通った路は、闇の夜の谷の急な坂でも
　精糖車を据えつけるような平坦な道に思えたものです。〉

【むんじゅる節】
1.麦蔓平笠　美らものや（むんじゅるひらがさ　ちゅらむぬや）
　女童真頂にちい据して（みやらびまぢちにちいいしてぃ）
　花染めよう（ハナズミヨウ）
〈むんじゅる平笠は美しい物です。
　娘の髪にかぶせてみましょう
　花が染まったように見えます〉

2.花染め手巾や　前に結で（はなずみてぃさじや　めーにむしでぃ）
　青年惚らしゅもの（にせーふらしゅむぬ）
　花染めよう（ハナズミヨウ）
〈きれいな手巾を前に結んでいたら、
　青年達がうっとりしてしまうでしょう
　花が染まったように見えます〉
　
3.照喜名坂から　よう姉妹よ（てぃるちなびらから　よううなひよ）
　麦蔓平笠　冠るなよ（むんじゅるひらがさ　かぶるなよ）
　津波古の（ツィファヌクヌ）
〈照喜名坂を通るときは　娘さん達
　むんじゅる平笠をかぶってはいけないよ
　津波古がいるよ〉

4.津波古の主の前が（つぃふぁぬくぬしゅぬめーが）
　にや打ち惚れゆんどう（にゃうちふりゆんどう）
　津波古の（ツィファヌクヌ）
〈お役人の津波古がお前さんに惚れて
　言い寄ってきてしまうよ
　津波古がいるよ〉

5.芋の美味さや　唐かんだ（んむぬまあさや　とうかんだ）
　米の美味さや　新かち米（くみぬまあさや　あらかちめー）
　御酒作ての（ミチチュクティヌ）
〈芋がおいしいのは唐からの物だから
　米のおいしいのは新米です。
　御神酒を作りましょう〉

6.御酒作ての　美味さや（みちちゅくてぃぬ　まあさや）
　白南風　唐かんだ（しらふえ　とうかんだ）
　御酒作ての（ミチチュクティヌ）
〈御神酒を造っておいしいのは
　真っ白い唐芋です
　御神酒を造りましょう〉

【芋の葉節（んむぬふぁぶし）】
里が張て呉てる　（さとぅがはてぃくぃてる）
ヘーイ　ヒヤルガ
麦蔓の笠や　ヨー（むんじゅるぬかさや）
被んでわん涼しや（かんでぃわんしだしゃ）
ヘーイ　ヒヤルガ
縁がやたら（いんがやたら）
ヨーンナ
〈愛しいあの方が作ってくれたむんじゅる笠は
　被っていてとても涼しいことよ
　二人は結ばれる縁だったのでしょうか〉

【赤山節（あかやまぶし）】
1.赤山芋の葉先（あかやまむぬふぇさち）ヨー
　梢にむでくゆい（すらにむでぃくゆい）　ヤリクヌ
　で我ね思里と（でぃわねうみさとぅとぅ）
　かえむでくらな（けむでぃくらな）
　ハラユイユイ
　ヤリクヤリクヌ　忍で語らたる（しぬでぃかたらたる）
　中のあさぎ（なかぬあさぎ）ハラユイユイ
〈赤い山芋の蔓の先は空に向かってひねりながら伸びている
　私も愛しいあなたと睦み合いたいです。
　小屋の中で忍んで語り合いましたね〉

2.さらば天川や（さらばてぃんがらや）ヨー
　島横になとい（しまゆくになとい）ヤリクヌ
　できやよ立ち戻ら（でぃちゃよたちむどぅら）
　昨夜の時分（ゆびぬじぶん）
　ハラユイユイ
　ヤリクヤリクヌ　里や我が宿に（さとぅやわがやどぅに）
　待ちゅらでもの（まちゅらでむぬ）ハラユイユイ
〈もう夜も更けて天の川は島の横に傾いてしまいました。
　さあ、家に帰りましょう昨晩と同じ時間になっています。
　愛しいあの方が私の宿で待っていますから〉


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